消化器科の病気ガイド
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過敏性腸症候群

過敏性腸症候群について

「過敏性腸症候群」…むずかしそうな病名ですが、実はけっこう身近な病気です。病名は出ませんでしたが、邦画にも登場したことがあります。それが1992年公開の『シコふんじゃった』(周防正行監督、本木雅弘主演)です。とある大学の廃部寸前の柔道部を舞台にした映画に登場する大学4年生・青木君(竹中直人)は、部を守るために留年をつづけてきたほどの相撲好き。でも一度も勝ったためしがない。その理由は、試合になると必ず下痢に襲わられるからです。お腹はゴロゴロと音を立てて痛みだし、プープーとオナラも出る。尻を押さえ、必死に便意をこらえて土俵にあがっても、立ち会いの頃には限界となり、トイレに駆け込むしかなく、いつまで経ってもまったく試合にならない。この青木君の「下痢ピー」こそは、過度の緊張が身体的症状としてあらわれた典型的な過敏性腸症候群です。青木君が尻に手をやり、内股になって、脂汗を流しながらトイレに行く様子はかなりコミカルで、映画のなかでは笑いをとるシーンでした。本人にとっては死にたいほどの苦しみのはず。でも周囲からは笑いのネタになることさえある残酷な病気が、過敏性腸症候群です。

ストレスと「脳の知覚過敏」が影響

過敏性腸症候群は、英語ではIrritable Bowel Syndromeといい、略してIBSと呼びます。アメリカでは、一般にも通用する呼び名で、日本の専門医の間でも使われていますから覚えておきましょう。

腹部や腹部不快感とともに便秘や下痢が慢性的に続くこの病気は、ストレス社会の先進国に多く、一種の文明病と考えられています。

大腸や小腸のガン・潰瘍を見つけるための検査では異常は見つからないことから、社会生活への支障は大きいにもかかわらず『シコふんじゃった』の「青木君」のように「死に至る病ではない」と軽んじられているケースが多々あり、総人口の15%が苦しんでいると推定されています。

過敏性腸症候群の症状のきっかけとなったり、症状を悪化させる要因として最も重要なのが「心理社会的ストレス」で、大きく分けて2種類あります。

1つは、人生の節目にあたる大きな出来事。

肉親の死、家族構成の変化、転職、大学受験などが該当します。地震などの大災害や虐待などによる心的外傷も重要なきっかけになると分析されています。

2つめは、日常のイライラや不安。

家庭や職場の人間関係が悪く気持ちが休まらない状態や、人前での発表、試験などの緊張も引き金になります。(「青木君」にとっては、相撲の試合が、まさにそうです)

また、食後や出勤・通学時に症状が起こる人もいます。テレビCM等で「急な下痢に効く!」などと宣伝されている薬は、過敏性腸症候群対策と考えてよいでしょう。

ただ、症状は「気のせい」だけで生じるのではありません。

「原因は完全には解明されていませんが、IBS患者には、腸、脊髄、脳に「知覚過敏」が見られます。たとえばバロスタットという検査で腸を刺激すると、健常者よりもかなり早い段階で(わずかな刺激でも)腹痛が起きることが分かっています」と、この疾患に詳しいT大学のF教授は言っています。

こんな症状ありませんか?

過敏性腸症候群を診断するにはまず、便潜血検査、尿一般検査、大腸内視鏡検査等々、類似の症状の別の病気と鑑別するための検査を行います。

そこで異常が発見されず、かつ、くりかえす腹痛とともに、
◎排便回数の異常(1週間に3回未満、または1日に3回より多い)
◎便性状の異常(兎糞・硬便、または、軟便・水様便)
◎腹痛等の症状は排便すると改善する

以上3項目の中の2項目以上があるかどうかが判断の基準となります。

これが「RomeⅢ」(ローマ・スリー)と呼ばれる国際的な診断基準で、これに合致する場合に過敏性腸症候群と診断されるわけです。

上記のような症状が続いているのなら、過敏性腸症候群を疑ってみるといいでしょう。

専門的な病院で受ける検査には、内臓の知覚過敏を調べるバロスタット検査のほか、脳の状態を調べるPET検査や機能的MRI検査なども行われる場合もあります。

生活習慣と食事が大事

治療法は、生活習慣の改善、食事療法、薬物療法が主になります。充分な睡眠、規則正しい食生活を心がけることが重要です。朝食後は、きちんと排便の時間がとれるよう、リズムが整った生活を送ることが大切なのです。

また、食事は、夜間の大食いや刺激物、脂肪分の多いものを避けましょう。推奨されているのは、高繊維食、乳酸菌食品です。加えて、特定の食物で症状が起こりやすい人は、それを避けると改善する場合もあります。

薬物療法は、最初の段階では腸内環境を整える薬や、便の状態を調整する薬を用います。それらが有効でないときには、抗うつ薬や不安を和らげる薬を使い、さらにこれらの効果が低い場合には、認知行動療法などの心療内科的な治療も行います。

「世界中の製薬会社が、この病の克服を狙っており、新薬の開発も進んでいますから、希望を失くさないでください」(前述のF教授)

自分や家族が過敏性腸症候群かな、と思う場合には、まずは地域の消化器内科を受診しましょう。いい医者を選ぶポイントは、困っている状況に耳を傾け、理解してくれることです。

過敏性腸症候群には、癌や潰瘍などの目に見える病変がないため、あまり重視されない場合もあります。そうした事態が心配な場合は、この病気の専門医らが立ち上げた「日本神経消化器学会」「Japan Gut Club」といった団体に参加しているドクターをお勧めします。

重度の過敏性腸症候群では、心療内科的治療が必要になるケースも少なくありません。専門医がいることに加え、心療内科を有する総合病院ならさらに頼りになります。

まとめ

重篤な病気(大腸や小腸のガン・潰瘍)を見つけるための検査では異常は見つからないことから、社会生活への支障は大きいにもかかわらず「死に至る病ではない」と軽んじられている場合も少なくないのが過敏性腸症候群です。

◎総人口の15%が苦しんでいると推定されている
◎大きな要因はストレスと脳の知覚過敏
◎規則正しい生活と食生活が大事
◎腸内環境を整える乳製品はおススメ
◎受診は消化器内科へ
◎できれば専門医+心療内科を有する総合病院を受診しましょう

以上の6点を覚えておいてください。